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Everything Must Change
(by Barbra Streisand)

投資とコストと勉強と

2015年8月3日

 なにげなくテレビを観ていたら、合間に流れてくるCMにふと気がついたことがあった。途中途中で出てくるゴルフ関 連用品CMのコピーが、ほぼ一緒なのだ。「飛ぶ・曲がらない」。ほぼこの2つの言葉だけが連呼されてくる。「まっすぐ遠くへ飛ばすこと」がプレイヤーに とっての永遠のテーマなのだろう。

 週が明け、ある講演の 依頼を受けて中小企業のインターネット事情について話すため、指定のホテルへと足を運んだ。厳しい経済状況に置かれている中小企業経営者の方々だ、閑散と しているだろうと高をくくっていたが、見事に裏切られた。「こうした時節だからこそ、何かしらのヒントを探し求めているのかなあ。だったらもう少し情報を アップデートしてくれば良かったかな……」と思いつつ、控え室に入ると、ある方がにこやかに座っていらっしゃった。

 かつてお世話になった外資系IT企業の元社長だった方だ。退任後、あまり対外的な活動はしていらっしゃらならなかったので、ご無沙汰だったが、お変わりは無い様子現役のころは、世界に知れたITの先導師で、ITブームを中小企業の分野にも興した張本人でもいらっしゃる。

  しばらく旧交を温めるようにして、昔話(といっても10数年前のことだが…)に花を咲かせて、その方が予定されている講演の内容に話がおよぶと、「ITは 投資ではなく、コストだ」と論を展開しはじめた。日本中にIT投資の波を起こした張本人が「ITはコストだ」と言っているのだ、これには驚いた。

  退任後、自分が起業家として中小企業の経営者になってみると、「世の中にはIT化が必要な企業もあれば、ITが無くても立派に経営していける企業もあるの よ。何がなんでもITって、ベンダーに『だまされて』導入しても、決してプラスにはならない」というのが、今の彼の持論だという。「ただし、ここ(控え 室)だけの話だけどね」と笑うのだった

 例えば、ここ 1~2年のIT業界のテーマはクラウドでありビッグデータだろう。それらに有らざれば、ITに非ずとでも言いたげなメッセージが飛び交っている。昨日まで あれほどERPだ、Saasだ、SCMだと言っていた人たち自身が、今日はまるで別人のようにビッグデータについて語り出す。しかし、昨日までの「それ」 と、今日の「これ」を明確に説明できる人に出逢ったためしがない。今年の暮れ頃には全く新しい言葉に置き換わっている状況は容易に想像できる。

  このような状況は枚挙にいとまがない。そうした裏には、大体においてIT業界が見え隠れしていて、次から次へと新しいコンセプトを打ちだしてくる。しか し、本質においてはさほど変わっていないことが多い。ITは専門家領域といった割り切りをしている経営者は、それこそ「いいお客」になるだけだ。

  私のパートは終わり、お役御免であったが、さっきの発言が気になったので、控え室のモニターをのぞき込みながら、彼の話を聞いてから帰ることにした。かつ ての弁舌はいまだ健在で、タイムスリップしたかのような錯覚に陥らせてくれた。もちろん聞いている方々も、モニターで見ている限り、真剣そのものだ。

  彼のメッセージには、先ほどの「ここだけ話」の表現こそないものの、導入には慎重さが必要なこと、ITは魔法の杖ではないこと、身の丈にあったITを選ぶ ことを、半ば漫談のように展開し、そして最後に次の言葉で締めくくった。「え~、いろいろ言いましたが、一番大事なのは、みなさんがITについての選択眼 を持つことです。そのためには勉強を怠ってはダメです。経営者って本当に大変ですね」

  ITのメッセージもゴルフ用具のメッセージとたいして変わらないようにも思うことがあるどの企業のメッセージも同じ言葉(キーワード)のオンパレード。ゴ ルフと違う点と言えば、猛スピードでキーワードが変わっていくことだ。ゴルフは冒頭に上げた「飛ぶ」「曲がらない」が永遠のキーワードだと説明を受けたこ とがあるが、ITは見事なほどに無責任に様変わりする。今年のキーワードは、来年は使い古された言葉として捨て去られる。今年導入したユーザーは、来年ど うしたらいいんだろう?

 元IT企業の社長が話している内容を吟味すると、勉強しないとIT業者に食われるよ、と言っていたのだが、はたしてそのメッセージは伝わったのだろうか。