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(by Barbra Streisand)

【仕事集】女性の力が地域農業を支え、日本農業を活性化する

2015年12月4日

日本経済新聞 電子版特集_農業女子_取材・執筆(2014.2)

食の安全・安心という時代の要請を受け、日本の農産物や農業そのものへの関心が高まっている。こうしたトレンドを定着させるためには、農業が「事業」として成り立つ必要がある。ものづくりのスキルだけではなく、農産物の商品化というマーケティング感覚が求められている。そこで注目されているのが、生産者の視点と消費者の視点の両方を持ち合わせた女性農業リーダーだ。2014年度の農林水産省補助事業として展開した「女性農業次世代リーダー育成塾」をリポートする。

■女性の斬新なアイデアや自由な発想で農業活性化

道の駅が地方の情報拠点として注目を集め、各地で増加傾向にある。14年10月時点では1040駅に達する勢いだ。
そうした道の駅のほとんどは地元農産品の直売所を構えている。活気ある直売所に見られる特徴は新鮮な地元農産品が並んでいるだけではなく、パッケージやディスプレイに意趣をこらしていることだ。それを目的に訪れる人も少なくない。
そうしたトレンドを引っ張っているのが女性農業者である。魅力ある直売所運営には、地域で活躍しているそうした女性たちの斬新なアイデアや自由な発想が欠かせない。
女性農業者は基幹的農業従事者の約4割を占め、女性が参画している農業経営体ほど販売金額が大きく、6次産業化などの農業経営の多角化に取り組む傾向が高いというデータもある。こうした点から、農林水産省では女性の農業分野への参画を促進する支援施策の充実・強化に取り組んでいる。
現在、地域農業のリーダー的存在といえる「認定農業者」や「農業委員」のうち女性が占める割合はそれぞれ4.3%、7.2%に留まっている。
就農人口拡大はもちろんだが、女性農業者が活躍する場の拡大や農業分野で新たにチャレンジする女性への支援は、日本の農業を維持・成長させるためには重要なテーマとなる。
その課題解決に向け、農林水産省は「輝く女性農業経営者育成事業」を14年度からスタートさせた。その具体的な事業の1つに「女性農業次世代リーダー育成塾」(以下、育成塾)がある。

■これからの農業経営に求められる経営者感覚

育成塾は自立的な経営ができ、周囲のメンタ―となれる女性農業経営者を目指すことに主眼を置いている。最短距離をとるためにまずは自身の事業収益モデルと正対し自立的な経営ができるようにすることに力点をおいている。その上で収益を得る、つまり商品が売れるために必要なマーケティングと実際に販売する機会体験し成長する点が大きな特徴だ。そのために消費者を知り、マーケットに多くの接点を持つことで、農業の事業化に向けた課題を顕在化しようとしている。
育成塾に集まったのは自治体からの推薦や自薦による応募の中から選抜された20人。地域を代表するリーダーとして活躍したいと考える女性農業者が集まった。
農業に携わる前の経歴も多彩だ。金融機関のシステム構築をしていたエンジニア、自治体職員や看護師、銀行員など。中には地域の農産物品評会で6年連続で金賞を受賞している農業者もいる。
共通しているのが生産者と消費者の両方の視点を持ち、自らの農業経営だけでなく地域活動にも積極的に関わり、新しい農業や元気な地域を生み出していく可能性と力を持っているアクティブな女性ということだ。
農業をビジネスとして成長させるためには農産物の一定量の確保や、農産物の価値を消費者に理解してもらうために、他の農産物と一緒になった商品化などを進める必要がある。その時に求められるのが生産者としての視点だけではなく、利益感覚や独自販路の開拓といった経営マインドだ。
受講者は地元では生産者として着実に実績を残しているが、その収穫物をビジネスにつなげる経営スキルが十分ではないという実情がある。その点を日本能率協会の箱﨑浩大氏は次のように語る。
「自分たちの生産量については答えられるが、どこにどれくらい納入して出荷額がどれだけあるかという利益構造について答えられる人は多くありませんでした。収穫したものを集荷場に送るというこれまでのスタイルでは限界があります。これからの農業には中小企業の経営者と同じように、経営判断ができるスキルを身につける必要があります」

■現場で知る消費者ニーズと事業化視点

第一期の育成塾は前半では農産品を消費者に訴えるマーケティングモデルを整理し、後半は生産現場に出向くなどして受講者自身の事業モデルを整理しながら、収益モデルについての知見を深めるプログラムが展開された。
実は農業関係の研修は意外と多い。そのほとんどがインプット型の座学スタイルである。育成塾に集まった第一期生の多くも、これまでそうした研修に参加したことのある経験者だ。そうした受講者に限って、マーケティングの重要性を知識としては持っているが、それをどのように実践に生かしたらいいかまでは理解が進んでいないという課題を抱えていた。
そうした点をカバーするために育成塾では、販売実践や展示商談会への参加などによって、座学だけでなく実践することに重きを置いた。実践で得られた経験をベースにした、事業化のためのPDCAサイクルを回す「机上では終わらない実践型研修」が持ち味だ。
受講者自らが新しい取引を得る機会をカリキュラムの中に取り込んだ。
また、首都圏での販売を想定して、高級スーパーや百貨店などの小売りや、築地・大田市場などの商品流通の現場で実際のビジネスにつなげるための情報収集、さらには小売りや流通業者の視点に立ったフィールドワークなども組み込まれていた。
全てのプログラムを修了した今、受講者は育成塾で得た多くの気づきを農業活動に役立てている。地元に「女子プロジェクト」を独自で立ち上げ、マルシェで得た経験を実販売に生かしている女性農業リーダーもいる。ほとんどの受講者が農業とは、他の産業と比べても魅力と将来性のある職業だと感じて第一期を修了したようだ。

■新しい価値を生み出し日本の農業を変える女性達

時代の要請を受け、農業経営を取り巻く環境は大きく変わりつつある。これからの農業経営にはいいものを生産するという視点だけではなく、加工・流通・販売といった流通プロセスを理解し、消費者の視点に立ちながら新しい価値を生み出していくことが求められる。そのためには地域内・地域間・異業種などとの連携を進める必要性がある。
こうした価値を生み出す鍵になるのが女性の活力である。女性ならではの着眼点やアイデアを農業経営に生かすことが、消費者や社会のニーズを満たし、農業全体の活性化につながるものと期待されている。
「農業者自らが経営的視点を持ち、コミュニティのリーダーシップをとり、製品の商品化に取り組むといったベースとなる経験値やネットワークの蓄積が必要です。育成塾はそのきっかけになればいいと考えています」(箱﨑氏)。受講者はこれまであまり考える機会がなかった「利益」という考え方を自らの農業に取り入れ、自らの経営改善を進めながら、地域の活性化に努めていくことだろう。
育成塾が修了しても、1年間を通じて受講したメンバー同士の連携や活動支援サポーターとの交流を継続し、地域で「リーダー」として活躍することが期待されている。